洋上風力発電と漁業権

洋上風力発電と漁業権

漁業は海域の先行利用者

漁船 洋上風力発電が国内で導入されるのに伴い、大きな課題として浮上しているのが、漁業との関係です。漁業は、日本では、海域の先行利用者でもあり、漁業権が既得権益として、長く定着しています。そのため、洋上風力発電を推進する場合、漁業関係者との調整が重要課題となっています。従来、発電所などが海域周辺に立地して漁業関係者との調整が必要となる場合、漁業補償金という形で折り合いをつける方式が一般的でした。しかし、そうした旧来型の調整方式では、長期にわたって、双方の利益を維持することが困難であるとの認識も高まっています。そうしたことから、最近では、発電事業者も漁業関係者も相互に利益を得ることのできるような方式に改める必要があるという考え方が多くなっています。

「Win-Win」の関係を築く

発電事業者と漁業関係者が双方ともに利益を得る方式は「漁業協調」あるいは「共生」と呼ばれています。そうした考え方は、近年、関係者の間で浸透していますが、実際には、言葉だけが先行し、具体的な内容がそれに伴っていないという批判も聞かれます。そのため、「漁業協調」「共生」などのイメージを、単に抽象的な言葉としてではなく、その基本的な考え方を明確にするとともに、具体的な内容を盛り込むことが重要であると考えられます。

漁業協調の基本的な考え方としては、発電事業者と漁業者が、対立的な関係でなく、双方にメリットを得る、「Win-Win」の関係を築くということを明確にしておく必要があります。その上で、メリットの共有を図る方法を考えることが重要です。

メリットの共有の具体策としては、風力発電の設置によって、地域全体の活性化に貢献することが求められます。風力発電によって発電された電力は、漁業のさまざま施設、例えば、製氷施設、場内車両や照明等に利用します。また、漁船の電動化を促進したり、漁港、漁村におけるバス、公用車等の公共交通機関のEV(電気自動車)化、さらには、体験漁業や海洋観光、漁業者の養成などが考えられます。そうした形での地域の活性化を図ることが出来れば、漁業者にとって、大きなメリットを享受できるといえるでしょう。

漁業関係者だけでなく、地域の住民、市民、あるいは来訪者・観光客などを含めて、体験漁業や風力発電施設の見学などを実施できれば、地域と風力発電の双方の振興が期待できます。

生物・生態系への影響を避ける

水揚げされた魚 双方のこうした「Win-Win」の関係が、風力発電と漁業の「共生」にとってきわめて重要な課題となりますが、その前提として、風力発電事業者が立地に当たって考えなければならないことは、海域における生物・生態系への影響を与えないという点です。この点については、海外における洋上風力発電の立地例を見ると、生物・生態系への悪影響は報告されていないようです。しかし、今後、国内における洋上風力発電の設置を考えた場合、立地海域の選定や構造物の設計に当たっては、できる限り、影響を与えないような配慮が求められます。風力発電が運転を開始した後も、継続的にモニタリングし、影響の程度を詳細にチェックする必要があるでしょう。さらに、それらのデータや発電計画等について、できる限り透明性を高め、必要に応じて漁業関係者や地域住民に公開することが重要と思われます。